しずかなあかりのしたで。

下町のおばあちゃんになって朝顔育てたいとか考えてる

櫻井敦司さんに会ったときの訳わかんないはなし。



BUCK-TICK、というバンドをご存知だろうか。メンバー全員群馬県出身、メジャーデビュー後は一度もメンバーチェンジもなく、今年何十周年になるのかなあ?詳しくはWikipediagoogleYouTubeで調べてみて欲しい。


以下はなるべく専門用語を使わず、平易な言葉で記述を心がける。


話は十年以上前に遡る。

その頃、わたしはBUCK-TICKが好きすぎて、やっぱりBUCK-TICKが好きすぎる友人知人たちとコンサートに行っていた。彼ら彼女らとは主にコンサート会場で知り合い、時には音楽誌の文通欄で知り合った。正直、今でも素性がよくわからない人も中にはいたけども、メンバーがよく行くという彼らの地元の飲み屋にわざわざ通ったりもしていた。その飲み屋で知り合った人達とも仲良くなったりしていた。


そんな日々を適当に過ごしていたら、中には男女交際をはじめる人達も出てくる。当時、わたしにも仲間内に好きな男の子がいて「あわよくば」と狙っていた。

そんな頃、やはり別の女の子を狙っている男の子から「二対二で飲みにいきませんか」と誘われた。よっしゃ行く、と意気投合した。

選んだ場所は、彼らが最近飲みに行くという飲み屋に決まった。

その日はBUCK-TICKの地元でコンサートがあり、その飲み屋も地元だった。その店に入るまえに「ここ、メンバー来るんだよ」と男の子達が言った。

「へー、そうなんだ」と感心しながら入店したら、出てきたのは先に書いた「よく通っていた飲み屋」にいたお兄さんふたりだった。すこし前に半ば失踪するかたちで店を辞めたふたりだったので、まずはお互いの無事と新規開店を祝ったりした。

気になったのは、店のあちこちにふたりのラブい写真が飾られていることであった。いろいろ察したが、大人なのでスルーした。


しばらく飲んでいるうちに「じゃあそろそろ解散で」という流れになった。が、店主カップルは「ゆっくりしていきなよー」と会計を拒否してきた。空気読めよ。

何度目かの「そろそろ」をしようとしていたとき、店の入口に信じられないものを見た。BUCK-TICKのメンバーだった。どうやら打ち上げというか飲み直しに使うらしいが、メンバーも普通にいる客に困っているようす。

さすがにプライベートに干渉するのは…と、お会計を申し出たとき「何言ってるの、あなた達は前のお店からの仲間じゃない。先に飲んでたんだもん、遠慮しないで」と優しく心遣いを受けた。


気づくと、通路を挟んで隣の席に櫻井敦司とスタッフ達が座っていた。化粧を落とした櫻井敦司はそれはもう、ただの絶世のイケメンというか美男である。とにかく美しくてどうしようもないんである。ため息しか出ない、というのはまさにこのこと。

バレバレだがファンではなく、店主カップルの知人として騒ぐのは控え、というか、衝撃から落ち着いたところで合コンに戻ろうとした。目の前のカップルは和気あいあいと盛り上がっていた。わたしは、隣に座る男の子に話しかけた、が、彼の視線は櫻井敦司に固定されていた。

その時、わたしは「恋する男の顔」というものを「恋している男の意識は上の空」というものを体感させて頂いた。

で、「ちょっと一人で飲み直そうかな」と思い立ち、店の外に出てみた。ファンに囲まれて出れなかった。仕方なく店に戻った。

相変わらず櫻井敦司を声もなく、うっすら涙を浮かべる潤んだ目で見つめ続ける男の子を「そんなに好きな人に近くで会えて良かったね」と祝福するしかなくなった。

そして、忙しく立ち働く店主カップルの片方、自分と同じ歳の彼が水商売デビューした頃からの数年の付き合いの間、どこら辺から年上の彼と付き合うようになっていたんだろうと考えたりして、閉店までの時間を潰した。


櫻井敦司は、時折グラスに口をつけ、カラオケに興じることもなく、何か積極的に語るようなこともなく、酒に乱れることもなく、その夜ずっと静かに微笑んでいた。

モナ・リザ」みたいな何ともとれる微笑みを浮かべた佇まいの麗人であった。


ちなみにあれから群馬の飲み屋通いはやめました。